ハコの厚みはここ次第!
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稲野 巧実
『ハコの開き』の管理人。
様々なゲームに浮気しつつ、アストルティアに度々出没する駄目社会人。ルアム【XI881-625】で冒険中。エンジョイ プクリポ 愛Deライフ! 貴方の旅に光あれ!
行動してから後悔しろが信条の体育会系思考。珈琲とチョコと芋けんぴがあれば生きて行ける!
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 僕は竪琴を爪弾いては、音をひとつひとつと零しながら問う。
 食へのこだわりが強い貴方が、食べたものを吐くとは思えません。排泄をした記憶はおありですか? さて、貴方が貪り食った数え切れぬオーガの民は、一体どこへ消えてしまったのでしょう?睡眠を必要としない貴方は、一睡もせず十の国を連続して滅ぼしたそうですね? 貴方はオーガ族を破滅の淵に追いやっていた時、疲労すら感じなかったのではないですか?
 ひとつひとつ重ねた問いに、泳ぐ目を見据える。
「強力な加護は祝福であると同時に、呪いであり、枷でもあります」
 『ランドンの戦神』と呼ばれた、邪悪なる神。その神がオーガ族を滅ぼす為に生み出したとされる悪鬼なのだから、戦う以外の能力など必要ないのです。食事は必要なく、睡眠も要らず、排泄は行われない。女と番っても子供を成す事もできないでしょう。全てが戦神と信奉した邪神の力で賄われている。
 しかし。僕は言葉を区切り、一拍の間を置いて言葉を続けた。
「貴方が存在するだけでオーガ族の結束は高まり、復活する脅威に備えて弱体化する兆しすらない。貴方がどんなに戦神に己の有用性を主張しようと、もう邪魔でしかないのです」
 戦神が用無しと判断し力を断てば、どうなるか。
 自分で自分を生かす事のできない身体が、どうなるか。
 僕が絶望に塗れた顔をじっくりと眺め、言葉をはっきりと紡いだ。
「貴方は死ぬ」
 グォォォォオオォオオオッ!
 身の毛が弥立つような咆哮がグレンを揺るがした。詰め込まれた憎悪の悍ましさはランドンの頂上に届かんばかりに響き、殺害した全てのオーガの絶望が跳ね返ってきた逃げようのない現在を威嚇するように終わりなく続く。誰もが一瞬でも怯む絶望の波だが、ゾンガロンにはそれで十分だったでしょう。
「ガライ!」
 ガルードさんが警告した時には既に遅い。ゾンガロンの鋭い爪は、僕の首を切り裂こうと振り下ろされているところでした。前衛職ではない僕には、この凶刃を避ける術も防ぐ術もありません。
 しかし僕は大変恵まれているんですよ。
『マスターガライ ニ 脅威接近。殺害許可ナシ。二度目ノ 警告射撃ヲ 実行スル』
 ピピッ。耳の後ろから、生き物では発することもできぬ声が告げた直後。天から降り注いだ光が、ゾンガロンの腕を撫でた。水が蒸発するような音を認識できたのは、至近距離にいた僕だけでしょう。僕に振り下ろそうとしたゾンガロンの腕は綺麗さっぱり消失し、肩口が素晴らしい名刀で切断されたような綺麗な面を晒す。
 ぎょろりと目が断面に向く。断面からじわりと血が溢れ、決壊したように血が迸るのと、ゾンガロンの絶叫が響いたのは同時でした。のたうち回るゾンガロンの断面から迸る鮮血が、遠慮なく掛かってきます。
「僕の友人は大変優秀です。貴方に一度警告射撃をしたことを、一千年ちょっと程度で忘れたりはしません」
 お礼に一曲弾いて差し上げないとですね。僕は友人の好きな曲を考えながら、血の気を失って行く悪鬼を覗き込む。
「では、なぜ生きていると思いますか?」
 僕の首に手を伸ばし縊り殺そうともできたゾンガロンですが、憎悪に濡れた瞳が瞬きひとつのうちに困惑に塗り替えられ、眼球が下を向く。グ、グゥ…。ゾンガロンの食いしばった口から うめき声が漏れ、残った腕が割れた腹筋をさする。
 ぼこん! まるで音が響くように腹が膨れ上がった。
 がっちりと閉じられていた口が開き、苦しみの声がぼたぼたと滴る唾液と共にこぼれ落ちる。立ち上がり首をあらんかぎりに下げて見下ろした腹は、ぼこぼこと膨らんでは萎み、右へ左と動いている。
「誰だ!」
 ゾンガロンが己の腹を殴打した。誰だ! 誰だ! そう叫びながら、ゾンガロンは爪を立てて己の腹を引き裂き始めた。一振りで真紅の筋肉組織が切り裂かれて弾け、二振りで内臓が白い液体を零しながら漏れ出る。己の腹に腕を突っ込み引き摺り出した腸が、ゾンガロンの足元でとぐろを巻いた。背に手をやれば翼を引き千切り、翼に連動した筋肉が持っていかれた奥で白い背骨が晒される。激痛から叫ぶ口とは裏腹に、ゾンガロンは己の中身を自分で掻き出して行くのだ。
 居合わせた戦士達の唖然とした視線の中、僕はその正体を告げる。
「貴方は腹の中の生き物に、生かされていたのですよ」
 胸を激しく掻きむしって肋骨を引き抜いていたゾンガロンの動きが、ぴたりと止んだ。
 あ。あ。身体が天へ吊り上げられるように直立したと思うと、のけぞった口から噴水のように血が迸った。胸が内側から食い破られ、脈打つ心臓を咥えた命が顔をのぞかせる。
 アハハ…。
 笑い声を楽しげに漏らし、脈打つ心臓が噛み潰される。
 それが、オーグリード大陸を壊滅にまで追い詰めた悪鬼の最後でした。

こんな死に様を書いている稲野は碌な死に方しないな。これが一度どころの話じゃねぇんだから救えんですわ。
そう思うようなゾンガロンの最後でしたわ。

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