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ハコの厚みはここ次第!
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□ Profile □
稲野 巧実
『ハコの開き』の管理人。
様々なゲームに浮気しつつ、アストルティアに度々出没する駄目社会人。ルアム【XI881-625】で冒険中。エンジョイ プクリポ 愛Deライフ! 貴方の旅に光あれ!
行動してから後悔しろが信条の体育会系思考。珈琲とチョコと芋けんぴがあれば生きて行ける!
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 そこは街道沿いであっても、お世辞にも栄えているとは言い難い宿場町だった。大きな町の間は早朝に出れば夕刻にはついてしまう間であれば、宿場町にわざわざ足を留める理由などないだろう。寂れ、いずれは朽ちて忘れ去られるような小さな宿場町。
 そこが小さくなくなったのは、なんとも不思議な理由だった。
 バンデルフォン王国が滅亡したという噂が、伝書鳩よりも早く世界を駆け巡って数年が経った頃だった。この街道を通る旅人達が、バンデルフォン王国で最も大きな国立劇場を見たと噂した。ステージから最も後ろの客席の客の口紅の色まで分かってしまう小ささながらも、外観も内装も贅を凝らされた劇場は、かつての花々の咲き誇る舞台を精巧に縮小せしめたと感動すらするだろう。神々があの美しい劇場が失われるのを悲しんで、あそこに建て直したと歌う吟遊詩人までいた。
 バンデルフォン国立劇場は、世界最高の舞台であった。王国亡き今、かつての舞台を懐かしんで、数多くの名だたる歌手が踊り手が演奏家が公演した。今では、バンデルフォンの悲劇も風化しつつあり、宿場町は劇場が建つ前の寂れ具合に落ち着いてきている。
「ここで、歌って良いですか?」
 そんな中、その劇場で歌を歌いたいと申し出た人がいた。旅の者という表現がしっくりする若者は、わざわざ足を留めて劇場の裏にあるバラ園を超えて家にまで訪れた。
 眩い人だった。ここには数多くのスターが訪れたけれど、その人は本当に星のような人であった。男と女の輝く所を選り抜いて、その体の中に仕舞い込んだ宝石箱のような人。バンデルフォンが滅ぶ前を懐かしむ、この劇場のファンにしては若い。例えバンデルフォン出身であったとしても、それを懐かしめるような年齢に達していなさそうな若者だった。
「断る理由なんかないさ。好きなだけ歌ってお行き。でも、1日待ちなさい」
 久々に劇場を掃除し、空気を入れ替え、オイルライブを補充する。舞台に立つ者への細やかな礼儀というやつさ。
 バラを摘んで花束にし、我が家にあった一番美しいリボンでまとめる。舞台のオーナーとしての勤めである。
 そして、一番良い酒。封を切ったばかりの葉巻。それをステージの一番前、特等席に用意する。それは、舞台を見る者の特権。その特権を行使できるのは、観客席にたった一人いる私だけだ。
「申し出を受けてくださり、ありがとうございます。ここで歌うのが、アタシの夢だったの」
 旅人はそう深々と頭を下げ、そっと歌い出した。
 まだ伸び代のある歌声であったけれど、その声はなんとも懐かしい。こんな声で歌を歌う娘がいた。若くて瑞々しい、蕾が綻んで満開になった途端、どこぞの騎士と他所の国へ渡ってしまった娘だ。あの娘は好きだった。まだ磨く余地がある宝石。育てがいのあるバラだった。あぁ、あの娘が早々にこの世を去ったと噂に聞いた時は、流石に悲しかった。
 賑わいが聞こえる。あの拍手喝采。巨大な劇場の全ての客席を埋め尽くす観客が総立ちとなって、万雷の拍手を巻き起こす。あの娘も歌っていた。まだまだ伸び代のある声であっても、多くの人を魅了した娘だった。容姿も人柄も、神様がわざわざ見繕って与えたと思える程の稀有なる娘だった。
 拍手は潮が引くかのように遠ざかり、ついに私一人の拍手だけが残った。ステージを降りた若者は小さく頭を下げて、渡された花束を照れ臭そうに受け取った。
「いかがでした?」
「そうね。まだまだだけど、好きよ」
 葉巻に火をつけ、深く煙を吸い込むと、ふっと目の前の若者に吹きかけた。不意打ちだったんだろうね。若者は盛大に咳き込んだ。
 私は笑みを深くする。心が躍る気持ちを抑えられないかのように、動き出す。
 煙を吸い込み血液に乗って全身に行き渡る。まだまだ育つ若い花に、なんて酷いことをするんだろうね。そんな嗜虐的な感情が、美味い酒という燃料を得て燃え出すようだ。
「次にここに立つ時は、もっと磨いておいで」
 若者は無邪気な少年のような笑みを向けた。
「もちろん。世界中の人を笑顔にするような、そんな人になります」
 おやおや、なんと高い志なのやら。これはもう、頑張って長生きしないといけないね。


「あらあら、マダム。まだ葉巻なんか吸ってるの? 健康に悪いわよ!」
 ふっと若者に煙を吹きかける。盛大に咳き込んだ若者は、今では世界で知らぬ人はいない有名人だ。そんなスターが私の吐いた煙に咳込んで乱れるだなんて、世界中のファンから嫉妬されてしまうねぇ。
「これは薬なの。取り上げられたら、すぐにくたばってしまうよ」
 大輪の花を咲かせたけど、まだまだ成長しそうな気がしてしまう。まだまだ、長生きしないといけないね。


今日からニート卒業、社畜復帰ってことなので、ワンライは事前執筆公開予約です。

『シルビア受け版ワンドロ・ワンライのお題の告知です。
第59回は「タバコ・葉巻き」「最も永く続く愛とは、決して報われぬ愛のこと」「マリーゴールド(#f39800)」です。
たくさんの方のご参加お待ちしております。』
バラじゃなくてマリーゴールドにすれば良かったぜ。

ひさびさに、ワンライってことで一時間で仕上げてみた。
一応、シルビア受けワンライって奴なんだけど、さすが稲野、まったく受けとか攻めとか概念ねーな!って感心する。個人的にタバコの煙吹きかけるとか、超絶攻めっぽいんですけどどうですか?(聞くな)
もうちょい花の逸話掘り下げて、艶っぽくしたかったんだが、考える時間と書き慣れる時間が足りなかった。勢いが乗らずに終盤失速したのは痛い。こう、書きたかった部分を一閃突きできなかったのは未熟だなぁと分析してます。精進せねばね!

拍手に感謝!ぱちぱちっとありがとうございます!
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