ハコの厚みはここ次第!
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稲野 巧実
『ハコの開き』の管理人。
様々なゲームに浮気しつつ、アストルティアに度々出没する駄目社会人。ルアム【XI881-625】で冒険中。エンジョイ プクリポ 愛Deライフ! 貴方の旅に光あれ!
行動してから後悔しろが信条の体育会系思考。珈琲とチョコと芋けんぴがあれば生きて行ける!
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 陽の光を反射した海水が奥へ奥へと光を投げ込むので、洞窟の中は神秘的な青い光で満たされていた。波の波紋が壁に青く照らし出され揺らめき、潮騒に混じってチュラリスの甲高い悲鳴が聞こえていた。しかし、駆け出す事はできない。海水と共に流れ込んだ風が、侵食して狭まった隙間を通って突風となって横から殴りつけてくる。しっかり踏ん張ってないと、橋みたいな道から落ちて海に真っ逆さまだ。
 真っ直ぐに開けた道にうたた寝していたガメゴン達が、あたしたちに気がついて首をもたげる。レナートが剣を構えて、あたしを先へ送り出す。
「全く、良く喋る虫ケラ供だ。バラバラに解体してから、海に破棄してやろう」
 低くとも響くベルマの声に続いて、金属をフォークで引っ掻いたような耳障りな咆哮が響く。家族の悲鳴が上がるのを歯を食いしばって聞きながら、海水に濡れた滑りやすい坂道を登る。
「ゼフの店の歌姫。命が惜しければ檻から出てこい。この魔法生物の破棄は、エテーネ王国の幸せの礎となる為に指針書に定められているのだから」
 そんなことないわ! シャンテの声が潮騒の残響を掻き消した。
「指針書が私達を幸せにするなんて嘘よ! 家族が死んだら、私達は絶対に幸せになんかなれない! 私は指針書を持ってないけど、姉さん達と幸せに生きているわ!」
 あたしは祈った。どうか、気が付かないでくれ。と。
 しかし、無情にもベルマの訝しむ声が潮騒の底を這う。『時の指針書』を盲目的に信奉する監督官は、シャンテが指針書を持っていないという言葉を逃さなかった。
「届け出には『リンジャハルの大災害で消失した』とあったな。指針書の再発行の手続きは行われていないが、魔法生物の件で少しでも疑いを消す為なら、再発行しない選択はない。もしや、できない…のか?」
「やめろ!」
 迸った私の声が洞窟の中を響き渡った。シャンテの『姉さん!』って驚いた声が、チュラリス達の『きちゃだめ!』って叫びが、やまびこのように帰ってくる。
 ぱちんと指を弾く音が響いた。
 なに? やめて! 来ないで! シャンテの怯える声に続いて、悲鳴が轟いた。
 こんな時に限って、滑る岩に足を取られあたしは盛大に転んでしまう。天井から雨のように滴ってくる水が、坂道に腹ばいになった服の内側に流れ込んで濡らしていく。ぐっしょりと濡れた白い毛皮で縁取られたケープとマントは、まるで岩のようにあたしの上にのしかかっていた。
 あたしは肘を立てて胸を起こすと、首元の留金へ手をやる。冷え切ったかじかむ手が、いつもは無意識で外す留金に苦戦する。早く。早く! 焦りが募るばかりで、指先から留金が逃げていく。顔に張り付いた前髪を乱暴に払い、見えもしない首元へ目を凝らす。
 耳障りな笑い声の合間に、なるほどと連呼される。
「時の指針書を持っていないのは当然だ! お前はエテーネ王国の人間ではないどころか、人間ですらないのだからな!」
 やめろ! やめろ! あたしが叫びながら力ずくで留金を外すと、水が滴るケープとマントが肩からずり落ちた。膝を立てて上半身を起こすと、マントを繋いだ金のチェーンを引きちぎった!
 べしゃりと重いマントが地面に落ちる音を聞きながら、あたしは駆け出した。羽が生えたように軽くなった体が、坂の果てにある光へ飛び込んだ!

熱くなってまいりましたヨォ!

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