ハコの厚みはここ次第!
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稲野 巧実
『ハコの開き』の管理人。
様々なゲームに浮気しつつ、アストルティアに度々出没する駄目社会人。ルアム【XI881-625】で冒険中。エンジョイ プクリポ 愛Deライフ! 貴方の旅に光あれ!
行動してから後悔しろが信条の体育会系思考。珈琲とチョコと芋けんぴがあれば生きて行ける!
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「馬鹿な父親だ」
 冷えた声色に、弾かれるように意識が今に向く。
 オルセコの歴史が詰め込まれた書庫は、ドランドの鬼人達が攻め込んだとて、ここまで酷くはしないだろうって有様だよ。石を薄く切り出し、オルセコ創建の過去まで遡れる石板は床に無造作に放り出されて積み重なってる。貴重な巻物という巻物は引き摺り出されて、広げられて捻れて折れて、酷いものは足跡なんか付いちゃったりしてる。
 踏まれて折れた物。雑に扱われて欠けた物。元に戻せるのかってくらい絡んだ物。破けちゃった巻物を見た時は気が遠くなっちゃったよ。貴重な文献を一つ一つ回収しながら、アタイは死んじまった先人達にどの面下げて会えば良いんだか考えちまうよ。
 今日の宮廷記録は『ギルガラン王子が書庫を荒らしまくって、復旧の目処は立たず』って書かなきゃならないだろうね。
 違う違う。
 『ギルガラン王子がラーの鏡で悪鬼を暴く。その正体は先王ゾルトグリン様』だ。
 信じたくはなかったけど、ゾルトグリン様が行方不明になった頃とゾンガロンが出現した時期はとても近い。不仲な王国同士を嗾け、防衛の穴を点き、国王の考えを読んで有利に事を運ぶ鮮やかな戦略。残虐非道で狡猾な獣って割り切ってたけれど、オーグリードの王国に精通したゾルトグリン様の知識を基礎にしているなら納得だ。
 その事実は、今のところこの書庫にいる三人しか知らない。
 そんな荒れ果てた書庫のど真ん中で、ギルガラン様は先王の手記を手にしていた。行方不明になる間際までの先王の御心が記された内容で、アタイも何か手がかりがないかって何度も拝見したものだ。
 手記は難攻不落の仇敵の手堅さに、歯軋りする王の姿がありありと思い浮かぶ内容が綴られていた。息子達への愛と、平和を遺したくとも遺せぬ焦燥感。それらが結びついた文字が、王直筆の最後の言葉として羊皮紙の上に残されている。
 『雄峰ランドンの山頂に眠る戦神が、人智を超えた力を与えてくれる』
 大臣として王の政務を補佐し続けてきたからこそ、見慣れた王の文字。力強く美しい筆跡で書かれたランドンの文字が、行方不明直後に大規模捜索を行う決め手となった。
 しかし、行き先は雄峰ランドン。
 隣接する海峡や海が原因で絶えず雪が降り、踏み込めば分厚い雪雲か猛吹雪によって白く塗りつぶされた視界に方向感覚を失い、断崖への滑落か、雪崩による窒息か、それとも凍死を死神に選ばされる極限の地。極寒の寒さに適応した魔物達ですら、住処の洞穴から出てこない猛吹雪に凍死する者は後を絶たない。この山を迂回する海路がわざわざ作られた、天然の壁。
 オーガ族でも一際恵まれた肉体を持つゾルトグリン様でさえ、遭難したとしても不思議ではない。滑落したり雪崩に巻き込まれれば、遺体を見つける事は至難の業だ。だから先王のご遺体を確認できぬまま、死亡を確定し国葬を行ったんだ。
 『息子らに平和を与えられる力をくれるなら、神でも悪魔でも関係ない』
 その言葉の後に続く真っ白い頁を一瞥し、ギルガラン様は興味を失ったように手記をテーブルの上に放り投げた。鼻で笑い、軽蔑の眼差しを手記に向ける。
「これでは、ゾンガロンになるべくしてなったと言わざる得ない」
 乱暴に放り投げられた手記は、開いた表紙に押されて頁が斜めに折れている。書類を扱う者として、王子でなければ『雑に扱うんじゃねぇ!』って叱責一つ飛ばしたいくらいだわ。
 手記を丁寧に拾い上げたのは、グリエ様だった。
 ギルガラン。不貞腐れたような兄弟を諌めるように、静かに声が掛けられる。
「父とて王である前に人です。苦しみも愛情も、人並みにあって当然です」
 ぴくりと、ギルガラン様の繭が跳ね上がった。

本当にこの心無い言葉ギルガランって思いますねー。

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