ハコの厚みはここ次第!
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■ Profile ■
稲野 巧実
『ハコの開き』の管理人。
様々なゲームに浮気しつつ、アストルティアに度々出没する駄目社会人。ルアム【XI881-625】で冒険中。エンジョイ プクリポ 愛Deライフ! 貴方の旅に光あれ!
行動してから後悔しろが信条の体育会系思考。珈琲とチョコと芋けんぴがあれば生きて行ける!
様々なゲームに浮気しつつ、アストルティアに度々出没する駄目社会人。ルアム【XI881-625】で冒険中。エンジョイ プクリポ 愛Deライフ! 貴方の旅に光あれ!
行動してから後悔しろが信条の体育会系思考。珈琲とチョコと芋けんぴがあれば生きて行ける!
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もう一人の取り巻きがグレインと呼ばれた男からベルマを受け取ると、じりじりと後ずさる。ベルマは尚もけたたましく殺せと騒ぎ立てるが、その指示に従う者はいない。馬扱いしていた異形獣は、もう奴らの手には負えなくなっているのだと分かる。
異形獣は手近にあった檻に爪を振り下ろす。
がぁん! がぁん! 凄まじい音が響く度に、頑丈な鋼鉄の格子が大きく凹んでいきやがる!
「やめろぉおっ!」
無駄だとはわかっている。それでも、あたしは異形獣に体当たりをしようとする。まるで虫でも払うように、ノコギリの歯のような尾があたしの頭へ振り下ろされようとしていた。世界が静止して洞窟の中に反響していた波の音が、シャンテの悲鳴が、ゆっくりと消えていく世界に、真っ赤で刺々しい死が夕暮れの日差しのように傾いてくる。逃げられるような速度なのに、縫い留められたように目が離せない。
きん。
一つ澄んだ音が響くと、まっすぐ上を向いていた尾が大きく揺らいだ。あたしの体を温かい何かが抱きとめると、尾から引き離される。真紅の尾が水飛沫を上げて落ちたと同時に、異形獣の絶叫が響き渡った。
「遅くなってすみません。運が悪く、ガメゴンロードに遭遇しましてね」
あたしを下ろしてにっこりと笑ったレナートは、瞬く間に異形獣を切り伏した。まるで海老を腹の辺りで千切るように手の蛇腹部分を切り飛ばし、足の関節に剣を差し込んで横に切り裂けば足がすこんと外れてしまう。念のために角を切り落とすと、震え上がるような恐ろしい声をあげた。視線を回らせば、指針監督官達の姿はもうなかった。
黄色い光が消えて力尽きた異形獣から視線を外すと、レナートは檻の鍵に剣の刃を当てる。こんと軽く叩くだけで、錠前が壊れて地面に落ちていった。
「姉さん!」
シャンテが飛び出した次の瞬間、彼女の柔らかな感触があたしを抱きしめた。あぁ、姉さん! 真実を知って絶望しただろうに、あたしがバケモノに殺されそうになったのを本気で怖がって、こうして互いに生きている事を心から喜んでいる。妹の涙に、あたしも涙を堪えられなかった。
「ごめんな、シャンテ。今まで、本当にごめん」
ベルマの言う通り、魔法生物の最低限の権利すらシャンテにはなかった。リンジャハルの大災害で死んだシャンテではなく、あたしが奇跡的に生み出した人型の魔法生物だから、あるべき記憶などあるはずがない。それなのに、あたしは嘘を吹き込んだ。記憶を蘇らせようと、無駄にシャンテを苦しめた。
嘘で塗り固められても幸せだった日常。それはいつかは終わる。シャンテが喉に埋まった宝石に気がつく前に、あたしは真実を告げなきゃいけないって分かってた。分かってたんだ。
でも、出来なかった。
シャンテは、もう、本物のシャンテと同じくらい大事な存在だったんだ。
大事にしたかった。二度と失いたくなかった。死んだシャンテに注げなかった幸せを、この子に存分に与えようって誓ったんだ!
「リンジャハルで死んだシャンテと、お前は違う。それでもお前は、あたしの妹だ。誰が、なんと言おうが、あたしの妹なんだよぉ!」
華奢な体を折れんばかりに抱き締める。ずぶ濡れで泥だらけな体が押し当てられて、リンジャハルの公演に着た最後の舞台衣装と同じものをわざわざ作らせたってのに汚れちまう。ラウラリエの造花をあしらったコーラルピンクのオフショルダーのドレスは、シャンテのお気に入りだっってのに。涙が止まんなくって、シャンテの髪を濡らしちまうって分かってる。でも、想いが溢れてどうしようもなかった。
あたしの背中に、そっとシャンテの腕が回る。
「確かにショックだった」
でもね。胸にシャンテの暖かな息が掛かる。
「真実を知った今、私の気持ちを手に入れたの。記憶を失う前のシャンテじゃない、魔法生物である本当の私の気持ちを…」
そっと胸が押されて、あたしは力を抜いた。
エテーネ王国で開かれた公演を記録した、記憶の結晶から再現した完璧な妹の姿。瞳の色も、ぱっちりとした目元も、通った鼻筋も、健康的な頬の色、唇の形に歯並びまで。幼い頃から妹を知る誰もが、見抜く事ができなかった。
器は簡単にできた。
人の形の器を魔法生物とするのは、親父にすら成し遂げられなかった偉業だ。
でも、そんな事はどうだっていい。
魔法生物の性格は起動直後にある程度、誘導はできる。しかし同じ製造過程を経ても、気性が荒かったり、逆にのんびり屋だったりと、魔法生物には個性が存在した。命令すれば、魔法生物はその個性も押し殺して従ってくれるだろう。だが、個性を消す事はできなし、書き換える事もできない。親父はそれを『魂』と仮説立てていた。
こんなにも妹を彷彿とさせる個性が、この世界に存在するならば、それは、きっと…
「私にとっての姉さんは、他の誰でもない、あなただけよ」
大災害の日から、二度と見れないと諦めていた笑み。あぁ。その笑みを向けられるだけで、あたしの心は幸せに満たされる。抱きしめたあたしを、シャンテも強く抱き止めてくれた。
妹は帰ってきた。あたしの元に、帰ってきてくれたんだ。
あぁーーーーーーー!!!!!!!よかった!!!!!!よかったあああああ!!!!!
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