ハコの厚みはここ次第!
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稲野 巧実
『ハコの開き』の管理人。
様々なゲームに浮気しつつ、アストルティアに度々出没する駄目社会人。ルアム【XI881-625】で冒険中。エンジョイ プクリポ 愛Deライフ! 貴方の旅に光あれ!
行動してから後悔しろが信条の体育会系思考。珈琲とチョコと芋けんぴがあれば生きて行ける!
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 お父様に叩かれた頬を氷嚢で押さえる。
 少し前まで侍女達が『婿を貰う前の娘の顔に、跡が残ったらどうするつもりなのか』と、口も憚らずお父様を辛辣に罵っていたわ。クオードは怒りに顔を真っ赤にして、時見の神殿から父を引き戻せと側近達に捲し立てているそうよ。
 部屋に戻って時間が経って落ち着いてきても、痛みよりもお父様に初めて手を上げられた衝撃に酷く混乱していた。扉をノックされた音に顔を上げて応じれば、執事長のジェリナンが入ってきた。色鮮やかな果実とハーブと氷がたっぷりと入ったハーブティーと、舌触りが良さそうな宝石のようなゼリーが台車に乗っている。痛みが少しでも和らぐよう、痛くても食べられるよう、心配りされた品々が胸に染み入る。
 ジェリナンが部屋に残った侍女達に目配せすると、侍女達はそれぞれにお大事にと私の体を気遣う言葉を掛けて暇乞いされていく。一人残ったポーラを入り口脇に待機させると、ジェリナンは心地よい声で話しかけてきた。
「メレアーデ様。お痛みが酷うございますか?」
 いいえ。私は小さく首を振った。
「ありがとう、ジェリナン。痛みは和らいできたから、大丈夫よ」
 それよりも、腫れたら腫れたでクオードが激怒して、時見の神殿まで突撃しないか心配ね。そう茶目っ気たっぷりに言えば、ジェリナンは笑い声を吐息に混ぜで『左様でございますね』と相槌を打ってくれた。
 冷たいハーブティーが血の味のした口腔を爽やかに拭い、なめらかなゼリーがつるりと胃に落ちていく心地よさ。こんな時でも美味しいと食べれてしまう神経を恨んでしまう。私はようやく、一つ息を吐き出せた。
『お父様! 彼らはマローネ叔母様の命を救ってくれた恩人です! 牢獄から解放してください!』
 私はエテーネ王国の女性でも長身の方だけれど、お父様は更に大きい。長い青紫の髪を後ろに流し、武術に長けたがっしりとした体が巌のように聳り立つ。色白いは逆光に沈み、色だけでなく冷え切った瞳と高い鼻筋が浮き上がっていた。
 パドレア邸が異形獣の襲撃を受け、マローネ叔母様が時渡りの力を奪われた。王宮に運び込まれた時には、昏睡した危険な状態だったわ。でも、クオードがすぐに、王立アルケミアから回収した時渡りの力を抽出する装置を使い、異形獣の角からマローネ叔母様の力を戻すことができたの。叔母様は数時間後に意識を取り戻されたわ。
 命懸けで守ってくれた旅人達にお礼を言いたがったけれど、それは叶わない。彼らは王宮に着いて直ぐに拘束され投獄されてしまったのだから。
 はぁ。父の薄く開いた唇から、確かに溜息が零れた。
『エテーネ王国の王女たる高貴なる身分が、声を荒げては品格を問われる』
 乾いた目に、必死に訴える私が映る。
 父、ドミネウスはお世辞にも良き父親ではなかった。
 勿論、己の死期を悟り子供達に王位を譲ろうと準備していたお祖父様の下で、エテーネ王国国王としての公務が多忙を極めた事は理解している。それでも、私とクオードに家族らしい事をしてくれた記憶はない。私にとってお父様は、父ではなく王だった。
 そしてお父様にとって、私は娘ではなく王女なのだ。
『正しき未来を選択し臣民を導く。偉大なる建国王レトリウスの血を絶やさず、未来に繋いでゆく事こそ王族の勤め。…お前には王族としての自覚が足りておらぬようだな』
 込み上げた感情に、体が燃えるように熱い。
 なんなの? お父様の求める王族の務めって、一体なんなの?
 私はメレアーデ! 王族の血を残す道具ではないのよ!
 昏睡状態のマローネ叔母様が持ち直した事を喜ぶでもない。クオードのように異形獣が侵入して発生した被害に、王国の防衛の是弱さに歯噛みするでもない。地上で暮らす民が魔法生物を失って不便を強いられるのを、申し訳なく思うこともしない。転送の門が正しく転送されず閉鎖された時も、修繕の指示すら出さない。
 分からない。お父様が、分からない。
 エテーネ王国国王ドミネウスが、とても不気味な存在に思えた。
 そして、ふと思う。普段は時見の神殿に篭っている以外は執務室から出てこないお父様が、どうしてここにいるか不思議だった。不思議が疑惑に変わり確信に至ると、それは油になって熱に注がれる。
 感情が燃え上がり、気がついた時には大声が口から迸っていた。
『ハッキリ仰ってください。叔母様を心配する私が気に入らないのでしょう? 叔父様を嫌っているからって、子供にまでそれを押し付けないで!』
 お父様の影が起こった猫のように大きく膨らんだ。次の瞬間、左頬に衝撃が走り薙ぎ倒される! 縺れた足のヒールが床のタイルの上を滑り、視界は火花が散って宙に投げ出された世界が回る。
『メレアーデ様!』
 床に叩きつけられるはずの体が、ふわりと抱き止められる。しっかりと肩を掴み、ぐったりと仰け反ってしまいそうな背中を温かい体が支えてくれる。投げ出された足が、ぐらぐらとする視界に見えていた。
『陛下! 失礼ながら躾とはいえ、ご息女に手をあげるなど…』
『王室の事柄に貴様ごとき下賤の者が口出しするな!それと死んだ愚弟の捜索は、これ以上は不要だ!』
 パドレ叔父様の従者の声を、お父様の高圧的な声が押しつぶした。幼少の頃からパドレ叔父様に仕える忠臣を下賤呼ばわりして、心からお父様を尊敬していた叔父様を愚弟と呼ぶだなんて! 王としてどころか人としてあり得ない暴言、それを吐くのが自分の父親であることが、ただただ悲しい。
 あぁ。頬を温い涙が伝っていくのを、他人事のように感じていた。

黄金裁判編前半始まりまっす!
うおーーー! モラルハラスメント親父!! 虐待の現場ですよ! ゆるさでおくべきか!!!
同類の親だとラグアスくんのパパであるプーポッパン王がいるんですが、彼以上に辛辣に同情の余地なく描かれてる。まだラグアスくんはお父さん好きって感じがゲームからも感じられますが、メレアーデとクオードはドミネウスのことを好いていないのがかなり露骨に描かれているので憎まれキャラに拍車がかかります。

拍手に感謝!ぱちぱちっとありがとうございます!

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